はじめに


 原本の作成が進んでいた頃は82年の大デバルエーションの後遺症がまだ色濃く残っていた時代で私の記憶ではインフレも100%前後ではなかったろうか。
 加えて国内産業保護の名目で輸入品は入って来ず、本当に物のない時代だった。
 例えば、日本食品屋さんの入り口附近は花屋さんだったり、駄菓子屋さんだったりして中の扉を押して奥の間に入ると日本食品がひっそりと並んでおり、買い物を済ませて表に出る時は何やら後ろめたさを感じたものだった。
 慣れない外国で暮らすこと自体難しいのに、物不足、特に日本食品のないなかでの奥様方の御苦労は並み大抵の物ではなかったと容易に推察される。
 然し、本書を読んでいると、物がない故の創意工夫を楽しむだけでなく、嬉々としてメキシコ料理に挑戦なさる御婦人方の姿が目に浮かんでくる。
 その土地の食べ物はその土地で食べるのが一番美味しいと言われる、今のメキシコではナマもの以外なら殆どの日本食品が手に入る、だからと言ってメキシコ料理を敬遠するのは、今ここで生きていることを空しくはしないだろうか。
 最後に原本の「はじめに」を締めくくっている言葉をお伝えしよう。
 「ここに取り上げました料理は、ひとつの目安として参考にしていただけたらと思います。少しでもあなたの食生活のお役に立ちましたら編集者一同これにまさる喜びはございません。」

 お断り:本書が発行されて14年が経過した今日、メキシコは大きく変わっている、編集なさった皆さんがご苦労されたことは今では何でもないことになっていることが多い。 例えば牛乳等に賞味期限が表示されるのは今では普通になっているが本書では古い物があるから気をつけるよう記述している。
 一方日本の方も変わっている、例えば日本のチーズの味に一番近いのは○○チーズという下りがある、つまり当時の日本ではチーズといえば一種類ぐらいしかなかったのだ。
 こういう記述を訂正すべきかどうか大いに迷ったが、編集なさった方々の感動をできるだけ尊重し、よほど現状にそぐわないところだけを訂正させていただいた。
  私の独断と偏見はこの色の文字で記されています。

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